成長のための“種まき”と基礎固めのための支援拡充

東京・多摩地区に拠点を置く中小企業支援機関が、独自の切り口による経営支援に乗り出している。東京都中小企業振興公社多摩支社(東京都昭島市)はIoT(モノのインターネット)の普及を目指して、セミナーの開催や企業間連携の場を組織。東京都商工会連合会(同)は、紹介予定派遣を利用したユニークな人材確保事業を実施している。IoT普及支援で将来の成長のための種まき、人材確保で成長のための基礎固めを図る考えだ。


都中小公社多摩支社、成長産業3分野でIoT活用支援を強化

東京都中小企業振興公社多摩支社は都内中小企業が環境や健康福祉、危機管理といった成長産業3分野でのIoT(モノのインターネット)化に対応できるように、IoTの基礎知識の習得や活用方法などの支援を強化している。背景には「IoTは成長産業3分野で事業展開する際の重要な “武器” になる」(都中小公社多摩支社の小池喜春支社長)との考えがある。IoTを生産の効率化や製品の付加価値を高める手段として、各分野での利用方法を探っている。

都中小公社多摩支社はIoTの基礎的事項の理解を深めるため、7月に初のIoTセミナーを開いた。テーマは「中小企業にとってIoT/Industry4.0は必須か」-。中小企業のIoT活用の先駆例として、今野製作所(東京都足立区)の今野浩好社長が「つながる町工場プロジェクト」を紹介。セミナーには約90人が参加した。

9月には初回のセミナーに参加した企業の中からIoTの活用に意欲的な企業を募り、2回目のセミナーを開催。約20人が出席した。第1回より深掘りしたセミナーとして、内野精工(東京都国立市)の内野誠専務がIoT化に向けて社内で取り組むIT化活動について講演した。

今月16日にはIoT支援施策の “本丸” となるIoT活用にテーマを絞った講演会を開催した。約50人が参加した。M2Bコミュニケーションズ(東京都八王子市)の田中雅人社長が、IoT向け無線通信規格「LoRaWAN(ローラワン)」について説明するなどより実践的なフェーズに移行した。

都中小公社多摩支社はセミナー参加者を中心に、IoTで経営力の強化を図る企業の連携の場として「多摩IoT Forum(TIF)」を組織した。すでに50社以上が参加している。小池多摩支社長は「成長産業3分野の中でIoTのニーズを拾い上げて対応できる体制を整える」と強調する。

IoT施策は成長産業3分野への中小企業の参入を支援する「広域多摩イノベーションプラットフォーム」(IPF)の一環として実施している。10月に開かれたIPFの目玉施策の製品展示商談会「新技術創出交流会」には都内中小企業136社が出展。大企業との個別面談には2015年度比6社増の165社が商談に臨んだ。大企業の参加は過去最多の51社だった。

これまでにIPF事業が契機となり取引に結びついた成約金額は2億円以上となった。都中小公社多摩支社は、IoTを成長産業3事業の横串になるツールと捉えて、IPF事業の底上げを図っていく方針だ。

都商工会連合会、モノづくり人材の確保に注力

東京都商工会連合会(村越政雄会長=ムラコシホールディングス社長)は、東京・多摩地域のモノづくり企業を対象にした人材確保事業に力を入れている。9月に中小企業の人材採用を支援する「多摩地域中小企業人材確保支援ネットワーク事業」を始めた。東京都の補助事業で、同地域で就職を希望する人にビジネス研修や製造業についての基礎知識研修などを実施した後に、紹介予定派遣制度を利用して就業に結びつける点に特徴がある。

「昨年くらいから、仕事量は増えているが人が集まらなくて困っているという経営者の声をよく耳にするようになった。人材の確保が喫緊の課題」-。都商工会連合会の傳田純専務理事はこう語り、採用支援の重要性を強調する。都商工会連合会が人材紹介事業に乗り出すのは初めて。傳田専務は「人材の育成には時間がかかる。今から対応しないと間に合わない」と警鐘を鳴らす。

多摩地域中小企業人材確保支援ネットワーク事業は、就職希望者に社会人としての基礎研修とモノづくり基礎研修を約1カ月間実施後、最長4カ月の実習企業先での現場研修をする。紹介予定派遣のため、就職希望者と企業が合意すれば、企業の直接雇用に切り替える仕組みだ。

直接雇用が前提の現場研修では、企業側が人材確保事業の利用に二の足を踏む恐れがある。これを紹介予定派遣にすることで、企業側の心理的ハードルを下げた。傳田専務は「人材のミスマッチを防ぐためにも、自社に適した人材か判断する時間が必要」と話す。現場研修では就職希望者に手当が支給されるため、企業側の負担はない。

ターゲットは技術の伝承に必要な若者と即戦力となる企業OBなどの高齢者、それに社会進出が進む女性が加わる。これまでに20人弱がビジネス研修や基礎知識研修に参加。構成は若者と女性がともに40%、高齢者が20%となっている。同事業を所管する東京都産業労働局の小金井毅事業推進担当部長は「中小企業は大企業のように何十人も必要とはしない。自社に適した人材を発掘するには、事業者に最も近い地域の支援機関の役割が重要になる」と話す。

都商工会連合会は各機関の連携を進めるため、約50社の中小企業や商工会議所、金融機関などで構成する「多摩地域ものづくり人材確保支援協議会」を設立。現場研修の受け皿となる中小企業数として、100社を目標に掲げる。2017年9月までに60人の採用を目指し、人材面から中小企業の成長を後押しする。

【2016年11月28日付】