インタビュー
東京都中小企業振興公社多摩支社長内田昇

首都東京のモノづくりをリードする多摩地域。独自技術を磨き、オープンイノベーションによる企業間・産学連携を進め成長を図る。東京都中小企業振興公社多摩支社は幅広いネットワークを生かし、中小企業の経営基盤強化のための支援を継続している。今春から同支社長に就任した内田昇氏に多摩地域での取り組みについて聞いた。

イノベーション創出を支援

国分寺・八王子に新施設

プラットフォーム立ち上げ

多摩地域の中小企業の現状は。
「コロナ禍が落ち着き、受注は戻ってきた感触があるが、この4 - 5月は若干マイナスの景況調査となった。中小企業にとって長引く円安や原油高、電気代の高騰、人材不足が課題となっている。景況感は踊り場といったところだ」
23年10月に企業支援施設「オープンイノベーションフィールド多摩(OiF)」を開設しました。
「多摩地域におけるイノベーション支援のハブとして、中小企業の製品・技術開発を促す目的で開設した。国分寺館(国分寺市)と八王子館(八王子市)の2カ所で、それぞれコワーキングスペースやセミナールームを備える。利用は開設当初から右肩上がりで推移している。SNSなどを通じて徐々に知名度が浸透してきた」
「国分寺館には主にモノづくり企業に向けた『プロトタイプラボ』を設置した。金属・樹脂用3Dプリンターや関連ソフトウエアが利用でき、専任アドバイザーも常駐している。かなり割安な利用料金で、技術的なサポートを得ながら試作品を作れる点がメリット。現在は月2回無料の見学会を開いているのでぜひ一度来館して体験してもらいたい。両館とも年30回程度イベントを開き、利用者同士が交流を図れる場も提供している」
半導体関連分野に焦点をあてた支援を始めました。
「24年3月に『半導体オープンイノベーションプラットフォーム』を立ち上げた。半導体製造における後工程への参入支援に特化した。月1回程度、大学や研究機関、半導体関連の大手企業から講師を招き、勉強会を開いている。毎回30社前後の参加があり、企業の関心はかなり高い。回を重ね、企業活動に近いテーマを取り上げるようにしたことで、活発な意見が出るようになった。今後も30社程度で、継続開催していきたい」
10月の新技術創出交流会の状況は。
「東京たま未来メッセ(八王子市)での開催は今回で3回目。中小企業のエントリーは500社弱と昨年度とほぼ同数だった。一方、大手企業は367部門の申し込みがあり、前回の276部門から大幅に増えた。大手企業には新しい価値を生み出すための一助になるという認識が定着してきたようだ。また、大手企業との個別面談会は同イベント期間中だけでは設定できない数にまで達しており、随時にマッチングできるよう対応している」
今後、力を入れていく取り組みは。
「都区部や周辺県ではイノベーションを核に、類似したコンセプトを有する拠点・事業がある。こうした拠点などと協業し、多摩地域に目を向けてもらえるような取り組みを進めていきたい」
「新規事業では中小企業のサプライチェーンに対して、脱炭素化の取り組みを支援する。脱炭素の取り組みをしながら、企業経営を安定させるという新しい視点だ。中小企業側はCO2(二酸化炭素)排出量の見える化がひとつの要素になる。削減量を提示できれば環境意識の高い大手企業と、より大きな取引につながるといった利点もある」
「また『社会実装参画による多摩イノベーション創出事業』は、大学や研究機関の研究成果を社会実装していく際に、中小企業の参画活動を支援する。コーディネーターが大学を訪問して技術シーズを発掘。中小企業の選定・マッチングを含めて行う」
自治体などとの連携は。
「先般、OiF八王子館に多摩地域の自治体、金融機関、産業振興団体が集結し、相互の事業説明や各地域のトピックを情報交換した。多くの方々と交流でき、非常に有意義だった。こうしたつながりを大事にしたい。周辺では産業振興計画を策定中の自治体もあり、情報共有していくなど今後もフットワークの軽い公社でありたい」

【2024年7月18日付】

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