「金属をいかに美しく仕上げるか」。1924年(大正10年)の創業以来、林精器製造が追求し、挑戦してきた課題だ。起源とも言えるウオッチケースの加工を通じ、90年以上にわたり蓄積してきた技術と経験が同社の競争力の源泉で最大の強みだ。ウオッチケースは精密部品であり、かつ装飾品という特徴的な製品だ。円高などにより国内での生産品は高級品にほぼ限られ、20万円を越える商品も少なくない。必然的に一般的な工業製品とは一線を画した価格に見合う高レベルの加工技術が求められる。
「外観の見栄えの美しさが消費者に価格を納得させる、最も説得力がある分かりやすい要素だ」と、林明博社長は商品の売れ行きをも左右する自社製品の担う責任の重さと、それを保証する研磨技術の大切さを強調する。だが研磨技能は、収得に時間がかかり、かつ人の手によるものを自動化や機械化することが難しい領域だ。いかに途絶えることなく伝承していくかが重要になる。「昔は先輩の仕事を見て盗めと言われたが、それでは顧客ニーズや市場の変化についていけない」と憂慮した林社長は、研磨技能を短期間で集中的に収得する「ものづくり研修塾」を5年前に開所した。
研修塾では塾生を通常の生産活動からは切り離し、教育プログラムに基づいた原則3年間の技能教育を行う。熟練工が指導員となり実際に作業をしながら新入社員に研磨に加え、石留めや彫金などの技能を指導し伝授している。研修終了者には技能レベルごとに修了書が授与される。他社に先駆け技能伝承を推進してきた林社長だが、現場の高齢化が加速するなか「技能の円滑な伝承は、会社の存続にも関わる最も重要な課題だ」と現状に甘んじる事なく、技能の伝承をさらに強化し、加速させていく構えだ。
(次回は11月20日(火)に掲載予定)