燃費表示制度「エネルギーパス」
建物の改修や物件選択のインセンティブ

建物の改修や物件選択のインセンティブ 建物の燃費性能の「見える化」

NRW州では建築物におけるエネルギーの効率利用にも取り組む。そのひとつが建物の省エネ化を推進する燃費表示制度「エネルギーパス」である。

エネルギーパスは、建物の燃費性能の「見える化」により、改修や物件選択のインセンティブとする仕組み。具体的には1年間に使われる冷暖房などのエネルギーを床面積1平方メートルあたりのKWHで表示。ドイツでは92年に導入され、国の基準値を上回った場合は、改修が必要となり、太陽光パネルの設置や断熱材の交換などエネルギー効率向上への工夫が求められる。

このエネルギーパスにはCO2排出増に歯止めがかからない民生分野の削減対策に悩む日本も大きな関心を寄せていることから、NRW州は、情報発信を通じて、この取り組みを日本に普及させる後押しも行っている。11年秋には州の担当大臣が来日。日本の政策担当者との意見交換を行ったほか、石川県では日独の専門家による国際シンポジウムを開催。長野県では県の温暖化対策にエネルギーパス導入を検討するなど、全国の自治体に導入機運が広がりつつある。こうした動きに呼応するように、11年にはエネルギーパスの普及団体「日本エネルギーパス協会」(東京都千代田区)も発足した。

NRW州では、高断熱の躯体とエネルギー効率の高い機器や設備を組み合わせた、エコタウンと呼ばれる気候保全住宅群を州内に100カ所建設する計画も進めている。州の政策担当者は「エネルギー効率化と再生可能エネルギーを推進することで雇用が生まれ、将来展望が開ける。これこそ、メード・イン・NRW州の気候保全政策」と胸を張る。

工業立国としてともに成長を遂げ、そして原発政策を展開してきた日独両国-。それだけにドイツは大震災後の日本に心を寄せている。エネルギーシフトの発想は、東日本大震災被災地支援の現場からも垣間見られる。

被災地支援

被災地支援 エネルギーパスの考え方に基づいたコミュニティーセンター

ドイツならではの被災地支援のひとつが、福島県郡山市にこの1月にオープンしたコミュニティーセンター。
原発事故に伴い、避難生活を余儀なくされている同県川内村住民の交流の場として活用してもらう狙いで、ドイツからの寄付金で建設された。

実は、このセンターはエネルギーパスの考え方に基づき、建設された低燃費型建築物。寒冷地でも暖房設備の使用を最小限に抑える構造となっており、建設にあたってはNRW州のエコ建築の普及に取り組む機関「エコセンターNRW」が協力した。もちろん、エネルギーパスが発行される。
背景には、これまでの日常生活を奪われストレスを抱える避難住民の支援はもとより、将来は、地域におけるエネルギー効率化のモデルケースにしてほしいとの思いがある。

日本ではいままさに、エネルギー基本計画の見直し議論が進む。ドイツが進めるエネルギーシフトは、日本の政策決定においても参考にするべき点が多々ある。同時に企業にとってはNRW州を舞台に繰り広げられる産官学さまざまな連携は、エネルギー問題をはじめとする社会課題の解決につながる新たな技術革新を生み出す可能性を秘める。イノベーションをもたらす歴史と風土-。NRW州の動向から目が離せない。

ドイツからの寄付金で建設された、福島県川内村のコミュニティーセンター
写真提供 一般社団法人日本エネルギーパス教会/一般社団法人クラブヴォーバン
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