原子力発電からのエネルギーシフト

東日本大震災を機にクローズアップされたエネルギー問題 原発問題をめぐるドイツの反応

東日本大震災を機にクローズアップされたエネルギー問題

そして、2011年3月11日-。この日を境に、NRW州に新たな視線が注がれている。東日本大震災を機にクローズアップされたエネルギー問題である。震災からの復興を遂げ、新たな社会像を模索する日本にとって、「エネルギーシフト」を強力に推進するNRW州の姿からは、進むべき針路のヒントを読み取ることができる。

東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所の事故発生以降、原発問題をめぐるドイツの対応は早かった。

メルケル首相が、原子力発電からの完全撤退を表明したのは原発事故のわずか3カ月後。9月にはシーメンスグループも原発事業からの撤退を発表した。すでに電力需要の約20%が再生可能エネルギーによってまかなわれている同国の実情が、原発政策に対する明確な意思表示につながったと受け止められがちだが、実際にはそれだけはないようだ。

医療技術分野における日本との交流

「ドイツの特徴は、エネルギー転換のコンセンサスが長い伝統の上に成り立っている点です」。こう話すのはNRW州経済振興公社の日本法人、エヌ・アール・ダブリュージャパン社長のゲオルグ・ロエル氏。事実、ドイツでは60年から89年の間に37基の原発が稼働したが、00年にはうち19基の運転を23年までに停止、かつ新規建設も放棄する方針を打ち出した。ところが、36年まで運転延長する決断をメルケル政権が下した結果、今度は反原発運動が再活性化するなど、ドイツ国民は常にエネルギー問題をそれぞれの立場からとらえ、真摯に向き合ってきた。福島原発の事故を受け、一足飛びに脱原発や再生可能エネルギーへの転換を進めようとしているわけではない。

エネルギーシフトにおいて先駆的な役割を果たすNRW州

エネルギーシフトにおいて先駆的な役割を果たすNRW州 二酸化炭素(CO2)の排出削減取り組み

そのドイツで国民的なコンセンサスに基づき、進められている政策が「エネルギーシフト」。再生可能エネルギーの利用拡大とエネルギーの消費抑制を車の両輪として、持続可能な経済成長を実現する社会システムへの転換を目指す。そして、そのエネルギーシフトにおいても先駆的な役割を果たすのがNRW州である。

NRW州はドイツ最大の経済州であると同時に、同国の電力の約30%を消費する一大消費地でもある。2大電力会社、E.ONとRWEも立地する産業構造を抱えるNRW州は、気候変動問題について野心的な達成目標を掲げ二酸化炭素(CO2)の排出削減に取り組んできた。CO2の排出量は2020年までに90年比25%削減。電力総供給量に占める風力発電割合は15%が目標だ。

ドイツ初の風力発電施設が建設されたのがNRW州であったように、同州では官民挙げてさまざまな先進的プロジェクトが進行中だ。

化学産業の盛んなライン・ルール地域では、既設の水素パイプラインを生かし、20年までに200カ所のステーション整備を計画。トヨタ自動車なども参加するプロジェクト「CEP」では燃料電池車の実証実験などが進められている。
電気自動車分野では、20年までに25万台以上の電気自動車を普及させ、欧州初の「広域e-モビリティ地域」を目指す構想もある。こうした取り組みの結果、ライン・ルール地方には、いまやエネルギーシフトへ向けた研究機関や企業が集積する一大クラスターという新たな顔を併せ持つことになった。アーヘン工科大学やドルトムント工科大学におけるエネルギーシステム研究、ユーリッヒ研究所では環境負荷の少ない発電所や燃料電池開発。これら研究事例はエネルギーシフト・クラスターのほんの一例にすぎない。

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